ニュースの概要
AIが広告、SNS投稿、顧客対応といったブランドとの接点を担う場面が増えるなか、企業にはAI専用のブランド統治体制が必要だとする提言が出た。中心にあるのは、価値観、語調、表現、禁止事項をAIが実行できるルールへ置き換えた「AIブランド・スタイルガイド」だ。あわせて、汎用モデルを無制限に使うのではなく、承認済みの自社データで調整して出力をブランドに合わせること、AIの成果データを見ながら運用を見直し続けること、人間が継続して監督することも求められている。AIの導入そのものより、導入後の管理体制が問われる段階に入ったと言える内容である。
引用元: AIブランド統治には、専用ガイドラインと人間による継続監督が必要(Creative Ads Lab)
分析・見解
AIが担う接点が増え、ブランドの声が平均化していく危うさ
広告のコピー、SNSの投稿、問い合わせへの返信。かつて人が書いていた接点の多くを、いまはAIが下書きし、場合によってはそのまま送り出している。ここで怖いのは速度ではない。ブランドの声が、気づかないうちに「どこかで聞いたような平均的な文章」へ寄っていくことだ。
汎用モデルは世の中の大量の文章から学んでいる。そのため放っておくと、無難で均質な語り口に流れやすい。複数の会社が同じ道具で文章を作れば、社名を隠したときにどの会社の投稿か分からなくなる。ブランドとは他と見分けがつくことだから、これは静かな資産の目減りである。
価値観を、AIが迷わず実行できる細かさのルールに直す
今回の提言の核は、AI専用のスタイルガイドである。ここで大事なのは、既存のブランドブックをそのままAIに読ませても動かないという点だ。「誠実で親しみやすい」と書いてあっても、AIはどの言い回しが誠実なのか判断できない。
必要なのは、使う語と使わない語、一文の長さ、敬語の度合い、お詫びの定型、触れてはいけない話題を、具体例つきで書き分けることだ。良い例と悪い例を並べた対比表が最も効く。たとえば「ご迷惑をおかけし申し訳ありません」は使うが、「ご不便をおかけしたかもしれません」は避ける、といった粒度である。人間の新人教育に使う資料より、一段細かく書く必要がある。
承認済みデータでの調整と、人が見続けることの意味
汎用モデルを無制限に使わず、承認済みの自社データで調整する(=自社の文章を使って、AIの癖を自社向けに整える)という考え方も示された。これは著作権や情報漏えいの面でも理にかなう。ただし、調整したから安心とは言えない。モデルは更新され、世の中の言葉づかいも変わる。半年前の「らしさ」が、今の「らしさ」とは限らない。
だから人間による継続監督が要る。監督とは全件を読むことではない。抜き取りで読み、ずれ始めた兆しを早く見つけ、ルールへ戻す仕事だ。成果データはその道しるべになる。ただし反応が良い投稿ほど、じつはブランドから離れていることもある。数字だけを追うのは危うい。
縛るのではなく、AIに任せる範囲を先に決める
ガイドラインを厳しくするほど安全になる、と考えるのは単純すぎる。航空機は自動操縦が高度に発達しても、最終判断は機長が持つ。自動化の度合いを場面ごとに決める発想が、ブランド運用にも使える。
定型の問い合わせ返信は広く任せる。一方、事故のお詫びや災害時の投稿、社会的に敏感な話題への発信は、必ず人が書く。この線引きを先に文書にしておくことが、統治の本体である。縛るためではなく、安心して任せるための設計図だと捉えたい。
ビジネスへの影響
最初の三十日で、良い例と悪い例を二十件ずつ集める
まず、過去の投稿や返信から「らしい」例と「らしくない」例を各二十件ほど集める。次に、その違いを言葉にして、使う語、避ける語、禁止事項に分ける。これを一枚の資料にまとめ、AIへの指示文にそのまま入れられる形にする。
完璧を目指さず、まず運用して週ごとに直すほうが早い。担当はマーケティング部だけでなく、法務や顧客対応の責任者も加える。禁止事項の多くは、現場の失敗経験の中にあるからだ。
確認の手間はリスクの大きさに応じて三段階に分ける
AIの出力を誰が、どの範囲で確認するかを決める。低リスクの内容は抜き取り確認、中程度は公開前に担当者が確認、高リスクは人が書く、という具合である。
あわせて、問題が起きたときの責任者と停止の手順も決めておく。投稿を止める判断を誰ができるのかが曖昧な会社は、炎上時に初動が遅れる。外部の制作会社や代理店がAIを使う場合も、同じガイドに従う条項を契約に入れておきたい。
成果の数字は、ブランドらしさの採点と並べて読む
クリック率や返信の満足度だけを見ると、刺激の強い表現が勝ちやすい。そこで月に一度、数字とあわせて「ブランドらしさ」を人が五段階で採点し、二つを並べて確認する。数字が高くても採点が低い表現は、短期の成果と引き換えにブランドを削っている可能性がある。
この確認を続ければ、ガイドの更新材料がたまり、AIの調整に使うデータの質も上がる。投資としては、ツールの費用より、運用する人の時間を先に確保するのが現実的だ。