ニュースの概要
スマートリングを手がけるOuraが、世界規模の広告キャンペーン「Wear Your Best Life」を始めました。特徴は、生成AIを一切使わず、実在する人の手と手作りの模型だけで撮影したことです。チェコのプラハでは35人の模型制作者が、10分の1サイズの街並みをつくりました。その街の住人を演じたのは、14人のハンドダンサーです。映像には、Ouraを着けた手が仕事や運動、ふだんの暮らしを送る様子が映ります。同社のCMOは、AIで作る映像の精度が上がるほど、本物の人間やデータへの信頼が価値を持つという考えを示しています。
引用元: Oura、生成AIを使わない人間中心のグローバル広告キャンペーンを展開(Mi3)
分析・見解
生成AIの広告が増えるほど、手仕事が目立つ逆転現象
広告の現場では、生成AIによる映像制作が急速に広がっています。短い納期と低い費用で、それらしい映像が作れるからです。しかし、誰もが同じ道具を使えば、仕上がりは似通います。見る側は「また同じ質感の映像だ」と受け流すようになります。
そこでOuraは逆の道を選びました。模型の街を人の手で組み、人の手で演じる。この手間そのものが、他社には真似しにくい差別化になります。希少になったものに価値が宿るという、市場の古典的な法則が広告にも働いています。
製品の約束と、広告の作り方を一致させた点
Ouraが売っているのは、睡眠や心拍といった体のデータです。利用者が求めるのは、数値が本物であるという安心感でしょう。広告の中身がAIによる作り物だと、その約束と食い違って見えます。
今回の企画は、製品が語る「実在する体」と、広告の「実在する手」を重ねました。ブランドが何を信じているかを、メッセージではなく制作方法で示したわけです。言葉で真正性(=本物らしさ)をうたうより、はるかに説得力があります。
手の表現が持つ、国や言語を超える強み
広告の主役を「手」に絞った判断も巧みです。顔を映さなければ、人種や年齢、文化の違いによる受け取り方の差が小さくなります。リングは指に着ける製品なので、手は製品そのものでもあります。
さらに、手の動きだけで感情を伝えるハンドダンスは、世界規模のキャンペーンに向きます。字幕や吹き替えに頼らず、同じ映像を各国で使えるためです。制作費は高くても、使い回しの効く資産になります。
ミニチュア撮影は過去にもあった、ただし意味が変わった
ミニチュア撮影は新しい技法ではありません。映画の特撮や、コマ撮りアニメが長く使ってきました。違うのは、今それを選ぶ意味です。かつては技術的な必然でしたが、今は「AIでは作っていない」という意思表示になっています。
同じ動きは食品や自動車の広告でも見られます。実物の撮影をあえて強調する事例が増えており、人の手の痕跡が一つの価値として定着しつつあります。ただし、手作りを掲げるだけでは続きません。中身の物語と品質が伴って、はじめて信頼につながります。
ビジネスへの影響
生成AIを使うか否かを、ブランドの方針として決める
広告制作にAIを使うかどうかは、費用の問題だけではありません。自社が何を約束するブランドなのかに直結します。健康、食品、金融のように信頼が土台の業種ほど、制作方法が見られやすくなります。
まず、自社の約束と制作手法が矛盾していないかを点検してください。AIを使う場合も、使う範囲と理由を説明できる状態にしておくと、後から指摘されても慌てずに済みます。
小さく始めるなら、人の手が映る場面を一つ選ぶ
Ouraのような大規模な撮影は、多くの企業には現実的ではありません。それでも、社員の手元や工房の作業、現場の音など、人の痕跡が伝わる素材を一つ加えるだけで印象は変わります。
たとえば商品紹介動画の一部を実写に置き換える、制作の裏側を短く公開する、といった方法があります。全部を手作りにする必要はありません。AIで効率化する部分と、人が担う部分を分けて設計すると、費用と信頼を両立しやすくなります。
効果の測り方も、あらかじめ決めておく
手作り路線は、再生数だけでは成果が見えにくい施策です。ブランド想起や好意度、問い合わせの質など、信頼に関わる指標を事前に決めてください。
短期の効率ではAIに劣る場面もあります。数か月単位で比較し、投資に見合うかを冷静に判断することが大切です。